フェンシングと書道の異色コラボが実現 企画に秘められた想いとは
スポーツ選手のパフォーマンスに大きく影響を及ぼしていると言われる「メンタル」に迫る、異色の企画が実現した。アスリートが大切にしている言葉を書道で描き、アスリートの人間性に迫る「アスリート×書道」。日本フェンシング協会の公式YouTubeチャンネルでは、既に3本の動画がアップされて注目を集めている。「アス書」を主催されている佐藤悠平さんに、企画の趣旨や始めた経緯などについてインタビュー。フェンシング日本代表の皆さんが描いた作品も併せてご紹介します。
佐藤佑平
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2020/07/30
記念すべき初回は、男子フルーレ日本代表の野口凌平選手、西藤俊哉選手、女子フルーレの柳岡はるか選手が参加。書いた後には銀座書道教室の上籠鈍牛(うえごもり・どんぎゅう)代表がオンライン指導。選手のみなさんの文字がみるみるうちに上達する様子も楽しめる。
日本フェンシング協会 公式Youtube
イベントを主催する佐藤悠平さん(本人提供)
ーーなぜ、この「アスリート×書道」の企画を始めたのでしょう?
佐藤:新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴い、活動ができなくなってしまったスポーツ選手の皆さんと、「一緒にできることはないか?」と思ったのが理由です。
活動自粛期間には、多くのスポーツ選手がSNSを通じてトレーニングの紹介やトークショーを開催していましたが、「もっとスポーツ選手の個性に焦点を当てたいと」思い、誰もが一度は取り組んだことがあり、家でも取り組める書道の企画を実現させました。
選手名鑑などを見ると、スポーツ選手の好きな言葉や座右の銘が書かれていることも多いですし、一つの競技に打ち込んできた選手の皆さんにとっても、ファンにとっても言葉は身近な存在です。
「アスリート×書道」では、試合前にモチベーションを高めている「アスワード」(アスリート×ワードを組み合わせた造語。「アス」には、明日や私達を示すusの意味もこめられている)を、皆さんに筆で書いてもらい、選んだ理由や言葉に籠められたエピソードを語っていただいています。
「レジェンド会」と第して行われた2回目は、女子フルーレの西岡詩穂選手と男子フルーレの藤野大樹選手が、ユニフォーム姿で登場。ユニフォームを着るのは1ヶ月ぶりという藤野選手は、「やっぱりユニフォームはいいですね」と感慨深げに語った。
3回目は、小学4年生まで書道をやっていたという女子サーブルの江村美咲選手と、男子サーブルの徳南堅太選手が参加。マレフィセントとアラジンの特徴的な衣装が印象的だった。
フェンシング9選手の作品を一挙紹介
「廃寝忘食」(はいしんぼうしょく)を選んだ野口凌平選手。「寝食という、生きる上での基本となるようなものも忘れるほどに、何かに没頭する。生きていくうえで、楽しいことや好きなことを増やしたい」との想いがあるとのこと。
西藤俊哉選手が描いた言葉は、「万里一空(ばんりいっくう)」。「1つの物事に対して動揺せず、努力し続ける」という意味で、自分のフェンシング人生と照らし合わせているとのこと。
日本代表のオレグコーチに薦められたという宮本武蔵の『五輪書』のなかに書かれていたこの言葉に、高校生の時に出会ったという西藤選手。マスクの裏に「万里一空」と書いていた時期もあったそうだ。
柳岡はるか選手は「 山溜穿石」(さんりゅうせんせき)を選択。
「 私は運動が苦手ですが、 5歳の時からずっと頑張ってきたからこそ いまここにいる。 小さな努力をコツコツと、 というのを常にモットーにしています」と、選んだ理由を語った。
「書道は中学生以来。良い字が書けるように頑張る」と意気込む藤野大樹選手が書いた文字は「為せば成る」。
「幼い頃から父に言われ続けていて、 頭の中に残っている。 この言葉を胸に日々頑張っている」と語る藤野選手の文字は、「迫力とバランスが良い」(上籠鈍牛代表)と高評価だった。
書道は「小学生以来ですが、当時は好きな科目だった」と話す西岡詩穂選手が書いたのは、「一期一会」。「良い事も悪い事も、 何事も人間関係から始まると思うので、人と人との繋がりを 大切にしたい 」と理由を語る。
江村選手のアスワードは「納得」 。選択を迷っていた時期に、「納得することをしたらいい」という野村忠宏さん(柔道・金メダリスト)のお話をお聞きしたことに触れ、「自分自身も、起きたことを無理やり納得するのではなく、納得ができる選択をするための努力が出来るようになった」と、選んだ理由を語った。
徳南選手のアスワードは「克己忍耐」。中学の時には剣道をしていたという徳南選手。「中学時代に出会った恩師との練習が、耐え忍ぶ己に克つメンタリティを培った」と語る。
ーーこれまでに7回開催されていますが、実際に形にされてみていかがでしょうか?今後の展望はございますか?
佐藤:書道の動画を通じて、スポーツについて詳しくない方も、選手の個性に触れたことがきっかけでスポーツにも興味を持ってくれるかもしれませんし、筆によって書いた文字には、強く個性が現れるので、これまでファンの方にも知られていなかった選手の魅力も引き出されるのではないかと思っています。
今はソーシャルディスタンスが求められる社会情勢なので、動画を使ったオンライン配信形式で開催していますが、将来的にはイベントなども展開させていただきたいと思います。
【合作】
公益社団法人日本フェンシング協会
日本フェンシング協会アスリート委員会
【公益社団法人フェンシング協会 関連リンク】