「子供たちが夢を追いかけ、羽ばたいていけるように」プロテニスプレイヤー笹原龍が挑む、スポーツを通じた被災地復興への未来【ATHLETE TEAM UP PROJECT チャリティーイベントレポート】
プロテニスプレイヤーの笹原龍さんが代表を務める一般社団法人RSEは5月26日、能登半島地震の復興応援を目的としたスポーツイベント『京都利休の生わらび餅 presents ATHLETE TEAM UP PROJECT チャリティーイベント 2024』を日本財団パラアリーナで開催した。講師としてサッカー元日本代表の田中隼磨さん、ラグビー元日本代表の大西将太郎さん、車いす陸上元日本代表の花岡伸和さんら各界を代表するアスリートが集結。サッカー、組体操、ラグビー、テニスの計4競技の体験会を行い、参加した子供たちにスポーツの楽しさや震災復興への想いを伝えた。
佐藤校長
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2024/06/20
同イベントは、今年1月1日に起きた能登半島地震の被災地支援の一環として開催。13年前に発生した東日本大地震での被災経験のある笹原さんが発起人として発案し、その思いに共感した多くのアスリートたちが講師として集まった。スポーツを通して被災地、そして未来の日本の元気の源となる「子供たちの笑顔」へとつなげていく。
參加該賽事的運動員和前運動員如下。
笹原龍(プロテニスプレイヤー)、田中隼磨(サッカー元日本代表)、大西将太郎(ラグビー元日本代表)、花岡伸和(車いす陸上元日本代表)、麻生真稔(元競泳日本代表)、石田太志(プロフットバッグプレイヤー)、五味亮将(プロパデルプレーヤー)、藤巻立樹、杉山美紗(ともに元シルク・ドゥ・ソレイユ パフォーマー)
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主催者である笹原さんは、「スポーツによる社会課題解決っていろんな在り方があるかなと思っていまして。僕らアスリートがどのような形でその課題点を、災害について知識のない子供たちや、問題意識が低い人たちに対してアプローチできるか。そこをしっかり考えました」と企画立案に至るまでの経緯を説明。またこの日は、自身も被災した東日本大震災後に生まれた参加者が多いということもあり、「3.11」の記憶の風化を防ぐ、防災への関心が高まる「きっかけ」づくりも、大きなテーマとして組み込まれている。
「今日集まってくれた子供たちと同級生ぐらいの人も、まだライフラインが整ってない中で数多く暮らしています。そういう状況を知ってほしいし、震災を風化させてはいけない。そのための試みや挑戦をスポーツを通して行っているんです」
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こうした理念に賛同し、集結したアスリートたちとの「夢」のイベントがいよいよ開始。まずは2004年アテネ、12年ロンドンとパラリンピックに車いすマラソンで出場し、両大会で入賞した花岡さんを中心に、ウォーミングアップから始まった。体育館を広く使い、怪我防止のためにしっかりと体の柔軟性を高めていく。手を広げて伸ばしたり、肩に手を置いてグルグル回したりと徐々に体温を上げていった。
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その後、赤と青のビブスを着用して人数を分け、4競技の体験会がスタート。サッカーでは田中さん、高校まで12年間、競技経験のある石田さんが指導。冒頭ではボールタッチやドリブルなどサッカーの基礎から入り、ボールに触れることの楽しさを体感してもらった。作者拍攝
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後半からは麻生さんらほかの講師も混ざったアスリートと子供たちのチームに分かれ、実際に試合で対決。サッカー経験の有無に関わらず、ボールを持ったら、練習したドリブルで積極的に前に進んでいく子供たち。アスリートとの競り合いに勝つシーンもあったりと、本気でゴールに向かっていく姿が多く見られた。作者拍攝
試合終了後にはお互いの健闘を称えて握手。相手に感謝の意を示すスポーツマンシップも忘れることはなかった。作者拍攝
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一方の反対コートでは、元シルク・ドゥ・ソレイユパフォーマーの藤巻さん、杉山さんによる組体操のレッスンが開催。元アーティスティックスイマーでもある杉山さんならではの足の上げ方や、アーティストとして身体の動かし方の素晴らしさを伝えている杉山さん直伝のパフォーマンスなどを伝授。「年齢も体つきもバラバラだけど、みんなで協力し合おう!」と参加者一体で楽しむことを呼びかけた。
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後ろの人に足を絡ませながら行う、組体操の高難易度の技にも挑戦。悪戦苦闘しながらも、講師陣のサポートもありながら、なんとか形になっていく。しかし、完成までもう少し……というところで崩れてしまった。ただ、それでも子供たちからは笑顔が見られたことが印象深い。この日が初対面でも、難しいことに一緒にチャレンジすることの楽しさを感じていた。
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その中で、腕っぷしに自信のある笹原さんと大西さんが呼ばれ、まさにシルク・ドゥ・ソレイユのショーでも披露していそうな大技をやることに。藤巻さんが両講師の肩に乗り、逆立ちを成功! その瞬間に、3人を円で囲んでいた子供たちがV字パフォーマンスで華やかに彩った。
彼らにとって、イベントの中でもひときわ思い出に残るシーンだったに違いない。
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続いて行われたのは、組体操でも活躍した大西さんによるラグビー競技の体験会だ。はじめにボールを大きく上に蹴り上げ、手に収まるまでに体育館の端から端へと進んでいく「だるまさんが転んだ」を行った大西さん。子供たちがあまりラグビーに触れたことがないからこそ、彼らが普段、学校や公園でやるような遊びを交えた方法で、競技との距離を縮めさせていたようだ。
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そこから少しずつ実際に行われるようなラグビーの練習に近づけていくと、2チームに分かれ、ボールを持ったままマーカーコーンをジグザグに走っていく形式でのリレーを実施。子供たちが見せるスピードあふれるランニングに対し、大西さんは「リーチ・マイケルみたい」「松島幸太朗みたい」とラグビー日本代表にたとえながら絶賛。勝負も拮抗し、3戦して1勝1敗1分けではあったが、「名勝負でした。両チーム優勝!」という形で褒め称えた。
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最後は自由にボールを蹴り、ラグビーを楽しんだ子供たち。ほぼ丸型のサッカーと比べ、楕円形のボールのため思わぬ場所に飛ばしてしまってはいたが、そのキックが難しいという要素もラグビーの醍醐味。なかなかプレーする機会がない競技と、思う存分向き合えたこの経験は、彼らにとって大きなものとなったはずだ。
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そして4つ目となる体験競技は、笹原さんが教えるテニス。1人ずつボールとラケットを手に取りながら、競技の入り方として握り方や、コツとしてボールをラケット(ガット)の真ん中に当てることを実践しながら伝えていった。作者拍攝
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実戦形式に入ると、子供たちに「僕のサーブは大谷翔平選手のボールとどっちが速いでしょう?」と問いかけながら、笹原さん自ら豪速球のサーブを披露。大谷が記録した日本最速165キロに対し、テニスのサーブは速い人で200キロ以上と、約40キロのスピード差がある。そんな反応すらできないような笹原さんのサーブを目の当たりにし、子供たちは驚きの声をあげ、あらためてプロ選手の凄みを感じている様子だった。
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その後のフォアハンドストローク体験では、五味さんのワンバウンドさせたボールに対し、一生懸命スイングしながらコンタクトさせていく子供たち。ネットの先にあるテント型のマトをめがけて、何度もボールにくらいつき、挑戦を続けていった。なかなか上手くいかなくても、誰ひとり根をあげず、諦めることはない。彼らの夢中になってテニスに打ち込む表情からは、まさにアスリートのような真剣さがうかがえた。それは心から競技を楽しんでいるからこそ。
笹原さんがスポーツを通じて伝えたいことは、しっかりと子供たちに届いている。
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体験会終了後には、スポーツに関連する企画コンサルティング会社・株式会社シンク代表取締役の篠田大輔さんによる「防災アクティビティ」が行われた。篠田さんは中学生の頃、当時過ごしていた兵庫県西宮市で阪神・淡路大震災で被災し、避難先での生活を経験。その体験をもとに、子供たちに震災時に重要な“備え”について説明し、スポーツを楽しみながら防災について学ぶことを目的とした「防災スポーツ」という新たなカタチを示していった。
作者拍攝
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そのプログラムのひとつとして、「防災知識タイムアタック」を実施。一人ひとりに防災に関する問題用紙が配られ、答えがわからない場合は、体育館中の壁に貼られた解答に結びつくヒントとなる紙を探して走り回る。アスリートや親御さんも一緒になって考え、制限時間内に解いていき、防災についての知識を深めていった。「こうやってスポーツで身体を動かしながら、普段考えない防災のことについて考えると、頭に残ると思うので、ぜひ家に帰っても、防災のことを思い出したり、家族で話し合ってほしい」と篠田さん。
笹原さんも「震災は重いテーマではあるけど、スポーツアクティビティに防災をミックスさせて、楽しみながら学んでいってもらえたら」と話した。
作者拍攝
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さらにイベントの締めくくりとして、2組によるスペシャルパフォーマンスが行われた。最初に登場したのは、プロフットバッグプレイヤーの石田さん。そもそもフットバッグとは、お手玉のようなバッグ(ボール)を手を使わずに、主に足を使って蹴るスポーツ。もともとは病院で膝を手術した患者のリハビリのために、靴下に豆を入れて蹴っていたことがきっかけで生まれたという。
石田さんはアジア人初の世界一に2度輝き、リフティングのギネス世界記録も保持している実力者。子供たちに向けて実際に足技を伝授しながら、スポーツとしての面白さを伝えていった。
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本番では、大人気のTVアニメ『マッシュル-MASHLE-』第2期のオープニング主題歌である、Creepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』を流しながら約2分間、圧巻のパフォーマンスを披露した石田さん。途中からはボールを2個に増やし、さまざまな足技で子供たちを虜にしていった。「足を手みたいに使うことで、動きが器用になりますし、グニャングニャンになるほど足が柔らかくなるんです。最近では学校の授業にも取り入れられているので、ぜひチャレンジしてみてほしい」
石田さんは今夏開催の世界大会にも出場予定。自身3度目となる“世界の頂”へ挑戦し、また心震えるパフォーマンスが見られることを期待したい。
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そして2組目には、一輪車のダンスパフォーマンスチーム『UniCircle Flow ユニサークル・フロー』の山口智生選手と小木真由子選手のペアが登場。一輪車競技の世界大会でも活躍しており、今回は「陸上のフィギュアスケート」とも言われる華麗な演技を披露した。作者拍攝
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しっとりとしながら、熱情あふれる楽曲が流れる中で、息の合った美技で会場を魅了していく山口・小木ペア。終始、笑顔を絶やさない演技に子供たちは見とれ、目の前に広がる美しい世界に心を奪われた。作者拍攝
ダンスを終えると、観客からは大きな拍手と歓声が沸き起こる。マイクを渡された小木選手は、「私たちは一輪車を6歳の時から始めたんですけど、ここまで続けるとはその頃は思っていませんでした。なので皆さんも、やりたいことを見つけたら、今しかできないと思うので、全力で頑張ってやってみてほしい」と自身の経験から得た“学び”を伝えた。
続けて山口選手は、息を切らしながら「一輪車を始めたのは、3つ上のお姉ちゃんがやっていて、真似しながら練習し始めたことがきっかけでした。学校にある一輪車を使って、体育館で練習していたので、今日の演技で少しでも興味を持ったり、好きになって学校などで乗ってみてもらえたら嬉しい」とパフォーマンスを通じて一輪車への挑戦を促した。
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そして迎えた閉会式。講師を務めたアスリートがそれぞれ一人ずつ、MVPとして、イベントの中で一生懸命に取り組んだ子、集合する際にいち早く駆けつけた子、膝を擦りむきながらも頑張った子などを選出。「また一緒にスポーツをやろう」という言葉とともに賞品を送った。その中身は、「ATHLETE TEAM UP PROJECT」協賛企業のストラク株式会社が運営する和菓子店「京都利休の生わらび餅」。一度に多く採取できないという希少な国内最高のAランクのわらび粉を使用し、とろとろの食感と上品で豊かな味わいが特徴だ。
このわらび餅が、少しでも被災地や子供たちの笑顔につながるように。笹原さんらアスリートたちと協力し、今後も震災の復興支援に尽力していく。
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最後に、笹原さんが自身の被災経験をもとに子供たちへメッセージを送った。「僕は東日本大震災で被災をしました。通う予定だった大学にも行けなくなりました。だけど僕にはテニスがあった。大学に行けない代わりに一生懸命にテニスに打ち込み、それによって海外のアカデミーのコーチにスカウトされ、プロ選手になることができました。このことから僕が伝えたいのは、何事に対しても一生懸命にやってほしいということ。
今日はみんな、普段やらないようなスポーツを経験して、楽しかったり、難しかったり、いろんなことを学んだと思う。その時に、自分の中で『できないや』って決めつけないでほしい。一度挑戦してみて、やった後に続けるかどうかを考えたらいい。今日、スポーツを通じて学んだ気持ちを、どうか大事にしてください。
あと、もうひとつ。僕は今年2月からほぼ毎週、能登半島地震があった石川県に行っています。そこには、みんなと同じぐらいの年齢で、電気がつかず、水が出ない環境で過ごしているお友達がたくさんいます。みんなはご飯が食べたい時には近くにコンビニがあったり、ご両親に料理を作ってもらえると思う。だけど、その生活は当たり前であるようで当たり前ではありません。いつどんなことが起こるかわからないからです。
なので今日、ここに来られたことを当たり前と思わず、連れてきてくれたお父さん、お母さんに対して、帰り際に“ありがとう”と伝えてください。約束してくれるなら、またみんなと一緒にスポーツアクティビティをやりたいと思っています。今日はありがとうございました!」
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イベントに参加した子供たちを、ハイタッチで見送っていった講師たち。今後の日本社会を生きていく“小さなアスリートたち”にとって、この日の約3時間は、彼らの未来に向けた大きな財産となったはずだ。4つの競技による体験会、防災アクティビティ、スペシャルパフォーマンスというプログラム構成に関しても、「さまざまなスポーツや防災、エンターテイメントを通じて、子供たちの選択肢を広げてあげたかった。これからもスポーツ側から子供たちに歩み寄っていける企画を実施していきたい」と笹原さん。
「これで終わりではなく、きっかけにして、子供たちが夢を追いかけ、羽ばたいていってもらえるように」
笹原さんたちアスリートの「想いをカタチに」していく挑戦は、被災地や子供たちの“明日”を拓いていく。
特別協賛:ストラク株式会社
特別協力:日本財団 HEROs、三菱総合研究所、一般財団法人 United Sports Foundation