西武ライオンズ“佐藤隼輔”が高卒ドラフトを志望しなかったワケ──あえて筑波大へ進学し独自のやり方で着実にたくわえた力
2024年の「プロ野球ドラフト会議」では、古川遼(日本学園高)がソフトバンクから育成1位指名を受けるも入団辞退を表明した。古川選手は、自身のXで「世代ナンバーワン投手となって、またドラフトの舞台に立ちたいと思っています」と心境を告白。今後は大学進学を目指すという。大学野球で実力をつけドラフト指名された選手として思い出されるのが、埼玉西武ライオンズの佐藤隼輔(24)だ。高校時代からプロ入りを期待されていた佐藤が、なぜ「プロ志望届」を提出せず大学進学からプロを目指したのかに迫る。※トップ画像出典/Getty Images
「まだプロのレベルに達してないかなと思った」
宮城・仙台高時代から注目を浴びていた佐藤選手。3年夏の宮城大会では最速144キロのストレートを武器に計41イニングを1人で投げ、58奪三振。準々決勝で敗れ、最後の夏を終えた佐藤選手は「必ずプロになって、みなさんに恩返ししたい」と誓った。
清宮幸太郎(早稲田実業高から北海道日本ハムファイターズ)や村上宗隆(九州学院高から東京ヤクルトスワローズ)など、同世代の有力選手と並び、“東北NO.1左腕”と呼ばれるまでになった佐藤選手だったが、2017年のドラフトではプロ志望届を提出しなかった。
「甲子園に行くぐらいの実力あれば、絶対にプロ志望届を出していたと思う。まだプロのレベルに達してないかなと思った」と話す佐藤選手。球速150キロの壁を超え、日本代表に選出されるほどの活躍が、プロ入りに必要だと考えた。
進学先に選んだのは、筑波大学だった。加盟する首都大学リーグは、東海大学や日本体育大学など名門がひしめき合う。同大野球部は、さほど強豪とは言えないチーム。しかし、佐藤選手には筑波大でしか得られないものがあると確信があった。「研究的な取り組みの環境が自分に合った」と佐藤選手が語るように、スポーツ分野へ学術的なアプローチが盛んな筑波大には、学生アスリートに向けた独自の取り組みがある。
科学的な見地からアスリートそれぞれに合わせた指導
スポーツ医学専門の福田崇准教授は、スポーツ医学の観点から佐藤選手にアプローチした。「佐藤選手の場合、トレーニングを、ガツガツとやってきたという背景でもないので、動きありきの考え方で、体の軸の取り方を教えた」と、器具を使ったトレーニング法を伝授。投手として大事な「肩甲帯」を大きく動かせるようにした。
さらに、動作解析分野の研究者でもある野球部・川村卓(かわむらたかし)監督からは、実際の投球に生かすための下半身フォームを学んだ。
「お尻の横にある中殿筋と呼ぶところでしっかりと押せるようになるのが、すごく大事。そうすると腕がコンパクトに出てきて、最後に手が伸びる。ここから前でリリースできますから、ストライクゾーンにしっかり腕がおりる」と川村氏は語る。投球フォームを指導された佐藤選手も「リリースのタイミングもうまくかみ合って、打者に見づらいフォームで投げられるようになった」と振り返った。
大学2年で目標の「球速150キロ」「日本代表入り」を達成
出典/Getty Images
体重移動における下半身の動きを改善することで、佐藤選手はピッチングにさらなる磨きをかける。そして、大学2年時の日米大学野球にて、初の日本代表入りを果たした。その時の登板では、球速も151キロをマーク。プロ入りへの条件としていた「球速150キロ」「日本代表入り」を同時に成し遂げた。その後に迎えた大学4年秋のリーグ開幕戦では、自己最速を更新する152キロ、4回途中を投げ、5奪三振無失点でドラフト前に結果を残した。
「しっかり大学の4年間、成長して自信を持って書ける」と、佐藤選手はプロ志望届を提出する。「4年後のドラフト1位を目指して、大学に道を選んだ。結果がどうなるかわかりませんけど、しっかりと1位でいけたら」と、2021年10月11日の「運命の日」に臨んだ。
結果は、1位指名こそかなわなかったものの、埼玉西武ライオンズから2位指名を受けた。佐藤選手は「1位という目標できて、結果2位という形になってしまったんですが、自信を持って志望届を出すことができました。次のステップに向けて心の準備もしっかりできているので、しっかり頑張りたいと思います」と、胸を張る。高卒でのプロ入りを断念し、独自のやり方で着実に力をたくわえ、4年後にかなえたプロへの道だった。
プロ入りから3年目のシーズンを終えた佐藤選手。ルーキーイヤーの22年は、12試合に登板し3勝4敗。24年シーズン終了時点での通算は、104試合6勝7敗、防御率3.05の成績を残している。今後、さらなる活躍が期待される投手だ。
Get SPORTS「2021年プロ野球ドラフト 筑波大学・佐藤隼輔 ~4年越しの夢を追って~」
放送:2021年
内容: 佐藤隼輔は高校時代、甲子園とは無縁ながら最高球速144キロの“東北NO.1左腕”として高卒プロ入りの期待がかかっていた。しかし、2017年のプロ野球ドラフト会議。甲子園を沸かせた同世代の清宮幸太郎(早稲田実)や中村将成(広陵)らが続々と高卒1位でのプロ入りを果たす中、男はプロ志望届を提出しなかった。「まだプロでは通用しない、大学へ行き4年後にドラフト1位を目指す」進学したのは国立大学のひとつ、筑波大学。スポーツ分野の研究に長けた環境で独自の練習に励み、最高球速152キロを誇るピッチャーに成長したそして迎えた2021年、プロ野球ドラフト会議。プロ断念から4年越しの夢を追って…。
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