Mvp

手打ち野球Baseball5のニューヒーローは元独立リーガー 日本選手権で初優勝5STARsからMVP

かつての独立リーガーが新たなヒーローに躍り出た。男女混合が特徴の5人制手打ち野球Baseball5の第2回日本選手権が1月13日に行われ、オープンの部で5STARsが初優勝。MVPには同チームから日本代表でもある六角彩子と、元独立リーガーの金城義が選ばれた。2017年に生まれた新競技は、様々な経歴を持った選手たちの新たな大舞台だ。身体能力と技術を磨いたニューヒーローが世界まで駆け上がる。※トップ画像/筆者撮影

圖標 img 20200702 114958 井上 尚子 | 2025/01/31

かつては“武蔵ロケッツ”と呼ばれた俊足「独立時代の体に」

金城義がBaseball5を始めたのは2023年11月からと、競技歴は浅い。かつてはBCリーグ埼玉武蔵ヒートベアーズで外野手としてプレーしていた。現在中日に所属する樋口正修内野手らとともに「武蔵ロケッツ」と呼ばれ、俊足を競い合った外野手だった。

野球を引退後就職し、スポーツからは離れていたが、2年のブランクを経た2023年、元チームメイトの宮之原健(当時5STARs→現Spirits Bonds)に誘われてBaseball5の道に足を踏み入れた。金城の持ち味はまずスピード。塁間が13mと小さなフィールドでは、隙あらば塁を駆け抜け、あっという間にホームに帰れる。

また、身体能力が高く反応速度も速いため、今大会では一番近距離で守る「ミッドフィールダー」として、数々の美技を連発した。そしてバッティングでも、今大会の3試合を戦って5割を超す打率を残した。ただ打つだけではなく、ここぞで打てる勝負強さを信条とする。

Thumb e98791e59f8ee4b880e5a181
決勝のGIANTS戦 金城のスピードは5STARsの大きな武器(筆者撮影)

昨年のうちにこの日の初戦が前回覇者のジャンク5と決まっていたため、チームは初戦突破のために練習と対策を重ねていた。

「練習時間も大事ですし、あとは体作りをしました。ビタミンとかプロテインとかサプリメントとかを入れて。この大会に向けて1ヶ月で2.5kgくらい落として、独立リーグ現役時代の体に戻せました。決勝までの3試合6セットはきつかったですが、おかげで最後までガス欠にならず、決勝でも力を発揮できました」

代表落選の悔しさをモチベーションに日本代表へ

2024年にアジアカップに向けて日本代表が選考された際、競技を始めて僅か数か月だった金城は代表候補として選出された。だが、最終的に代表に残ることは出来なかった。

「補欠ではありましたが、日本代表選手と接して『もっと上手くなりたい』と思わせてもらった。それが練習での原動力に繋がったと思います」

Baseball5侍ジャパンのメンバーは、普段のリーグ戦や練習試合からよく知っている顔ばかり。

「取りに行っても取れてない。去年悔しい思いをしたので、まずは圧倒的な成績を残し続けるということが大事だと思うので、2025年も引き続き戦っていきたいと思います」

Thumb e98791e59f8e
競技歴は浅いが金城のモチベーションは高い(筆者撮影)

Baseball5の「侍ジャパン」日本代表は、控え選手も含めて男女8人という狭き門。次回招集・選考される時期は未定だが、力と技に磨きをかけて、代表候補たちとともにしのぎを削る。

女子のMVPは「草分け」5STARsの六角彩子

オープンの部優勝の5STARsから女子のMVPに選ばれたのは、攻守に渡ってチームの大黒柱である六角彩子だった。

日本代表にも連続して名を連ねる草分けだ。昨年2月の日本選手権からワールドカップまでの間に、「実戦が必要」と関東で初のリーグ戦を立ち上げた。それぞれのチームが協力し合い、運営も審判も中継も自分たちで行うリーグ戦だ。苦労しながらも実戦を重ねてきたことが、この大会にも生きた。

Thumb e585ade8a792
5STARsの要で競技の普及に大きく貢献している六角彩子(筆者撮影)

昨年のワールドカップでは再び決勝でキューバに敗れ、世界の壁の厚さを感じた日本代表だった。世界で勝つために足りないものは、と問われると、六角は「単純に練習量というのがまず一つ」と答えた。

「体育館だけではなく、外で練習したりとか、気候とか暗さだったりとか、色々な環境で練習しなきゃキューバには勝てない、という反省も出ました。Baseball5に対する真剣さというのを、キューバに学ばせてもらっています。『必ず日本が世界一になるためにみんなで頑張ろう』とワールドカップで負けたその日にみんなで話し合いました」

仕事を抱えながら、野球と両立しながらなど、それぞれに制限はあるが、それでも練習量と実戦数、また環境への順応力を高める努力が求められていく。

「やればやるほど上手くなるのがBaseball5の魅力です」

前回初戦で敗れたこともあり、この大会で優勝して日本一になることは、どうしても叶えたい目標だった。そしてその先に、常に世界を目標に置いている。

「日本が世界一になるというのは、すべての目標ですから。今回5STARsが日本一になって、日本を引っ張っていけるような、そんなチームとしてこれから活動していけたらいいと思います」

日本選手権は第2回だが、国際試合や練習試合、イベントなどで顔を合わせることの多い主力チームのメンバーはお互いによく知る相手だ。

「みんな仲がいいんです。今日は誕生日の人がいて、練習の合間にみんなでお祝いしました」


六角もほかのチームのメンバーたちも、大会当日が誕生日だった稲村亜美(読売ヴェルディ・バンバータ)を、チームの枠を超えて祝ったという。全力で戦うときも、普及に尽力するときも、Baseball5を続けている者はみな切磋琢磨する仲間同士だ。


昨年MVPの三上駿は初戦敗退もさらなる成長を期す

前回優勝のジャンク5は初戦で今回優勝の5STARsに敗れた。優勝候補同士、当初予想された通りの接戦で両者とも堅い守備力を見せていたが、ジャンク5の要となっているのがミッドフィールダーを務めた三上駿だ。前回大会ではMVPに輝いた。

Thumb e4b889e4b88a
三上擁するジャンク5と5STARsとの戦いは息詰まる接戦だった(筆者撮影)

2024年にアジアカップ優勝、ワールドカップ準優勝という成績の日本代表に選ばれた三上は、世界との差を「パワー」だと感じていた。

「やはり自分の課題はバッティングだと思っています。世界大会ではすごく打球が速くて、そのレベルに達しないとなかなか勝てないと思いました。今まではウエイトトレーニングをあまりしていなかったんですが、やり始めています」

昨年の優勝時に見せつけた三上のスピードはそのまま。ミッドフィールダーとしての役割も果たし、技術の高さを印象付けている。チームの実力はそれぞれ伸びてきており、どのチームが優勝してもおかしくない。勝ち負けはその時々の勝負のあやと言えるだろう。俊足で席巻し、ミッドフィールダーで存在感を示す三上が国内トップレベルなのは間違いないが、日本代表を狙うライバルは金城を始め、絶えず追ってくるはずだ。

「周りの人も練習してどんどんレベルが上がっていると思います。毎回代表になれるもんじゃないな、という風には思いました。追いつかれないように頑張りたいです」


そう述べる三上も、見据えるのは世界だ。

「世界ではキューバ以外にもフランスなどBaseball5のチームが日本より断然多い国がある。斎藤佑樹さんがスーパーバイザーに就任してださったのは、競技としてありがたい。どんどん発信していただけたらと思います」

日本選手権に集うのはBaseball5が大好きな選手たち

日本選手権に集う選手たちは、Baseball5が大好きな人たち。

野球の経歴は必ずしもBaseball5に必要ではない。どれだけその競技を好きになり、その特性を理解し、練習で技術を高められるか。そして与えられるものだけでなく、自ら新しい道を切り開いていく力が求められる。

一人ひとりが伝道師でもある選手たちが、この競技を広め、指導し続けていくことで、新たな世代が生まれていく。競技人口を増やしていく「普及」は「強化」への道でもある。やがて育った次世代のヒーローたちが、日本選手権の舞台から世界に羽ばたいていくだろう。Baseball5の今後に期待したい。


5stars

Baseball5日本選手権は最高レベルの激戦ー新王者は六角彩子率いる「5STARs」

>

%e6%96%8e%e8%97%a4%e3%81%95%e3%82%93%e5%90%8d%e5%88%ba

男女混合手打ち野球「Baseball5」とは?スーパーバイザーに斎藤佑樹氏「革命起こせる新競技」 

>