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笠松将、アスリートと人間ドラマが交差するストーリーに惹きつけられて

サッカーを通じて感じた人間ドラマや選手たちの成功と挫折。その背景を考えるのが好きだという笠松将。その視点は、俳優という仕事にもつながる部分がある。「何かを乗り越えた先に輝きが生まれる」という考え方が、彼の行動や生き方にしっかり根付いている。焦らず、無理をせず、自分に嘘をつかずに進むスタイル。その根底にあるのは、サッカーで感じたリアルなストーリーだった。※メイン画像:撮影/松川李香(ヒゲ企画)

圖標Ippei Ippei | 2025/01/23

サッカーが教えてくれた人間模様と俳優業への影響

――笠松さん、サッカーの話題を共有できる仲間は多いんですか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

昔はあまりいなかったですね。当時は選手やチームを見て『なんかかっこいいな』くらいの感覚で終わっていました。でも今は、ワールドカップやユーロの試合を見ながら仲間と盛り上がれるようになりました。例えば、『ヤマルって16歳なの?やばくない?なんで70分で途中交代するか知ってる?』みたいな話で延々と語り合ったりしますね。特にレアルの話題は誰でも乗ってきやすいので、そこを軸に会話が弾むことが多いです。

――サッカーの話から俳優業に興味がつながった瞬間はありましたか?

いや、全然つながってないです。サッカーはプロを目指したわけでもなく、ただ友人と一緒に過ごすのが楽しかっただけ。俳優も最初はそんなに特別なものじゃなくて、軽い気持ちで『ちょっとやってみようかな』って始めたんです。だから今でも深く考えていなくて、仕事がなくなったら辞めればいいかな、くらいのスタンスです。

――俳優という仕事に対して特別な思い入れはあまりないんですね。

僕、俳優一家とかじゃないので、肩書きも伝統もありません。むしろ、例えばロナウドの息子とか、ああいう環境の方が大変そうだなと思います。親がロナウドだと、周りの期待が半端じゃないですよね。それだけでプレッシャーがすごくて、サッカー嫌いになりそうです。

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

――サッカーの試合よりも、人間模様に興味があると。

そうなんですよ。試合そのものよりも、そこにある人間ドラマが面白いんです。怪我を乗り越えて復活する選手の話とか、一度消えたスターが思わぬところで再び輝く姿とか。例えば、若い頃に期待されなかった選手が30歳を超えてコロンビアで全盛期を迎えるとか、そんなストーリーが大好きです。

――サッカーから得た影響は俳優業にも活かされている?

そうかもしれませんね。サッカーを通じて、選手がどうして成功したのか、あるいはなぜ失敗したのか(と言っても、プロになっているだけで失敗ではないですけどね。ここでは便宜上)を考えるのが好きなんです。その成功や挫折の背景を知ることが面白くて。それって俳優業にも通じる部分があると思うんですよ。何かを乗り越えた先にこそ、輝きが生まれるというか。

笠松将が語る、名言を超えたスポーツ選手の感動ストーリー

――スポーツ選手の名言には心を動かされることが多いですが、笠松さんの心に残っているものはありますか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

確かに名言そのものも素晴らしいんですけど、僕はそれを言った背景が気になります。例えば、ジュリオ・セザールの話が印象的です。彼はインテルやブラジル代表で活躍したゴールキーパーでしたが、ワールドカップでのミスをきっかけに国民から大バッシングを受けて、生卵を投げつけられるほど追い詰められてしまいました。その後代表からも外され、公園で息子と練習する日々を送るほど追い込まれていたんです。それでも彼は諦めずに努力を続けて、次のワールドカップの半年前に再び代表に招集されるんですよ。その時、国民は『本当に大丈夫か?』と半信半疑だったけど、彼の表情やオーラが完全に変わっていた。そして本大会のPK戦の前に円陣を組みながら、チームを鼓舞します。『俺が3本止めるから、お前らは胸を張って蹴ってこい』って言うんです。震えながらも、それをやる覚悟で臨んで実際に3本止めた。その言葉を口にした彼の背景や覚悟が本当にかっこいいなと思います。この一連の動画がYouTubeに残ってるので、僕結構見返してます。

――その背景があってこその名言なんですね。

そうなんです。あと、ロナウジーニョのエピソードも好きですね。ワールドカップ決勝の前夜、彼が後日談で語っていたんですが、『食事も全部吐いてしまうし、寝られないほどプレッシャーがすごかった』と。でも、試合当日、ブラジル代表として黄色いユニフォームを着た瞬間、プレッシャーや不安は全部忘れて、ただ楽しくサッカーをした。それで優勝まで持っていったんです。

――プレッシャーを跳ね返すその強さが心に響きますね。

ただ名言がかっこいいとかじゃなく、その言葉を言える状況やそれを乗り越えたドラマがあるからこそ、胸に響くんですよね。アスリートと人間ドラマが交差するストーリーには、どうしても惹きつけられます。

「自分に嘘をつかない―行動の哲学と勝負の美学」

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

――笠松さんは、自分のスタイルや行動を大切にする瞬間はありますか?

僕、誰かに見せるためとか、良く思われたいから何かをやるっていうのは全くできないんですよね。誰が見ていようといまいと関係ない。でも、自分だけはずっと見ているんですよね。だから、自分に嘘はつけないんです。例えば、やってないのに『やってるふり』をすることも無理だし、逆にやってるのに『やってない』と振る舞うこともできない。結局、自分が一番、自分のことを見てるじゃないですか。

世の中には理想論やきれいごとが溢れているし、誰だって『これをやればうまくいく』なんて簡単に言えます。でも、それを本当に行動に移して成功している人って少ないと思うんです。だから、僕にとって一番大事なのは『行動が伴っているか』口先だけの言葉には価値を感じないんですよ。

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

――そんな笠松さんが俳優人生の中で、特に印象的なターニングポイントを語るとしたら?

よくターニングポイントは?って聞かれるんですけど、僕自身は『これだ!』っていう瞬間はあまり感じたことがないんですよね。ただ、ずっと“ネクストブレイク”って言われ続けてるんです。『お前、まだブレイクしてないのかよ』って思う。でも、そんな微妙な立ち位置が心地よかったりもします。もちろん壁を破りたい気持ちもありますけど、今のペースも悪くないなって感じてます。

僕の中では、人生ってブラックジャックみたいなものなんですよね。賭けた分だけリターンがある。でも、大きな勝負をするには“ここぞ”というタイミングを見極めないといけない。例えば、100 ドル賭けて勝ったら200ドルになる。負けたら0になる。これを繰り返して何時間テーブルに座っていても、結局そんなに収支は変わらない。だからタイミングを見極めてどこかで大勝負をしなきゃいけない。それができるのは、普段から情報を集めたり、自分を整えたりして準備ができているからこそだと思うんです。だから、僕はむやみに肩の力を入れたり、焦って勝負に出たりはしないですね。『これは勝てる!』と確信が持てる時だけ、大きな決断をするようにしています。それまでは冷静に待つ。そんな感覚で生きてるんです。


笠松 将(かさまつ・しょう)
1992年生まれ、愛知県出身。2013年から本格的に俳優として活動。2020年『花と雨』で長編映画初主演を果たし、近作ではドラマ『君と世界が終わる日に(Hulu)』、配信作品『全裸監督2(Netflix)』、主演映画『リング・ワンダリング』、日米合作『TOKYO VICE(HBO max)』、『ガンニバル(Disney+)』などに出演。2022年、CAAとの契約を発表し、国内外で活躍する。2023年、個人事務所設立。


Hair&make:Ryo Matsuda
Stylist:Masahiro Hiramatsu
Photo:Rika Matsukawa