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バスケ日本代表“井上宗一郎”、「あのラストシュートが、僕らを変えた」渡邊雄太とのマッチアップ、そして代表への想い

「試合に出ていなくても、勝ちに貢献できる」──それを体現した夏だった。2023年、沖縄で開催されたFIBAワールドカップ。井上宗一郎は、出場時間が限られる中でも“代表の一員”としてチームに深く関わり、歴史的な勝利の空気を、誰よりも近くで感じていた。スター選手が並ぶ代表チームの中で、どんな意識で戦っていたのか。そしてその経験は、今の彼のプレーにどうつながっているのか──。「勝ちたいからこそ、犠牲になれる」日本代表の強さを内側から見つめた、井上宗一郎の言葉に耳を傾けたい。※トップ画像撮影/松川李香(ヒゲ企画)

圖標Ippei Ippei | 2025/04/18

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バスケットボール選手"井上宗一郎”「見てる人は見てるよ」10代で刻まれた“ひと言”が、今も支えになっている

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「試合に出ていなくても、勝ちに貢献できる」ワールドカップで見た“日本代表の強さ”

──代表チームの話で2023年夏のワールドカップを振り返って。あの大会で得た経験は、井上選手にとってどんなものでしたか?

そうですね。やっぱり「日本バスケの歴史に残る瞬間」に立ち会えたこと。それに尽きます。あの場所にいられたこと自体が、本当に光栄でした。

──しかも日本開催(沖縄)という特別な舞台でしたよね。

はい、“母国開催”の空気感は別格でした。国際大会の経験はまだ少なかったんですが、沖縄の会場はとにかく熱量がすごかった。観客の声援が本当に背中を押してくれて、「これはいつもと違う戦いだ」と、肌で感じました。

──ご自身は出場時間こそ限られていましたが、意識していた役割はありましたか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

もちろんです。「試合に出る」ことだけが貢献じゃないと思っていたので、練習からベンチまで、できることを常に探していました。試合に出ていない時間でも、声を出す、盛り上げる、情報を伝える――そういう“見えない仕事”が、チームの勝利につながると信じていました。

──その姿勢が、チームの「一体感」を生んだんですね。

間違いなく、それがひとつの勝因だったと思います。バスケって、スター選手がひとりで局面を変えるスポーツでもありますけど、今の日本代表の強さは「全員で戦っている感覚」にある。あの大会では、コートに立っている5人だけでなく、ベンチの全員、スタッフ全員が「この一勝」に向かって本気だった。それが、世界相手に勝てた理由だと信じています。

ロサンゼルス五輪を見据えて「ギラギラ」と「献身」、両方なきゃ戦えない

──レベルが上がるほど、チームを一つにまとめるのは難しくなりますよね。代表クラスともなれば、全員がエース級。そんな中でどう“ひとつ”になるんでしょうか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

確かに、全員が自分のチームでは中心選手だし、「自分が活躍したい」っていう思いは誰にでもあると思います。でも、代表に集まっている全員に共通しているのは“勝ちたい”という強い気持ちなんです。その気持ちがあるからこそ、自然と“自己犠牲”もできる。自分の役割に徹したり、時には一歩引いてチームの流れを優先したりする判断ができるようになる。ただ、もちろんみんな「自分にもチャンスはある」と思って準備しています。その“ギラギラした気持ち”も必要なんです。むしろ、そういうものがないと、このレベルでは戦えない。勝ちたいからこそ犠牲にもなれるし、負けたくないからこそ貪欲にもなれる。その両方を高いレベルで共存させることが、代表選手に求められていることだと思います。

──次の大きな目標は、やはり2026年・ロサンゼルス五輪でしょうか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

それはもちろん意識しています。でもその前に、今年の夏にアジアカップも控えていますし、チャレンジできる舞台はまだまだある。だからこそ、1つひとつのチャンスを大切にしたいと思っています。今、日本代表に対するファンの期待値はとても高まっていますよね。ワールドカップやオリンピックの活躍があったからこそ、「日本のバスケは世界と戦える」っていう空気がある。その流れを自分の力でさらに後押ししていきたい。「次は井上だ」と思ってもらえるように、結果で証明したいです。

「バスケの熱、確実に上がってきている」

──最近は、特に若い世代を中心にバスケットボール熱が高まっている印象があります。選手として、現場でそれを実感する場面はありますか?

感じますね。特にワールドカップの影響は本当に大きかったと思います。入場者数を見ても明らかですし、実際にプレーしていても、「観客の熱が違うな」って思う試合が増えました。歓声や空気感から、バスケが確実に“盛り上がってる”っていうのを、肌で感じます。

──まだBリーグを生観戦したことがない方に向けて、バスケの魅力を伝えるとしたら?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

やっぱり「臨場感」ですね。バスケのコートってコンパクトだから、観客との距離がすごく近いんですよ。選手同士の声、ベンチからの指示、ハドルの会話…そういう“リアル”が全部聞こえる距離感って、他のスポーツではなかなか味わえない。しかも、展開が早いので1プレーごとに試合の流れがガラッと変わる。その緊張感と迫力を、ぜひ会場で体感してほしいです。

──Bリーグがより日本全国に広がっていくために、必要なものはなんだと思いますか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

一番は「スター選手」がもっと増えることかな、と思います。バスケって競技人口は多いけど、他のスポーツ──たとえば野球やサッカーに比べて、すぐに名前が思い浮かぶ選手がまだまだ少ないと感じるんです。


「この選手のプレーを観に行きたい」って思ってもらえるような存在が、全国のチームにどんどん出てきたら、観客動員も自然と増えるし、代表チームの結果にもつながっていくんじゃないかと。

──なるほど。日本人って「応援したい選手」を見つけるのが得意な国民性でもありますしね。

まさにそうなんですよ。ワールドカップでもそうだったように、結果を出せば出すほど、どんどん注目も増えるし、国民的な盛り上がりにもつながっていく。バスケは絶対に、“応援されるスポーツ”になれるポテンシャルがある。僕自身も、そういう流れをもっと加速させられるように頑張りたいと思っています。

「あの一本が、僕らの“変わるきっかけ”だった」渡邊雄太とのマッチアップ、そして千葉ジェッツ撃破

──今年1月、B1リーグ第17節GAME2。越谷アルファーズが千葉ジェッツを91−89で下した試合。ラストショットを沈めたのは、井上選手でした。渡邊雄太選手との直接マッチアップという特別なシチュエーションでもありましたが、どんな気持ちで臨んだ一戦だったのでしょうか?

雄太さんは、小学生の頃からずっとYouTubeでプレーを見てきた“スター選手”です。憧れの存在だった選手と、代表でチームメイトになったり、こうしてBリーグで真正面からぶつかれることがまず光栄で…。でも同時に、「絶対に負けたくない」という気持ちが自然と強くなりました。千葉ジェッツは日本を代表するクラブで、スター選手も実力者もそろっている。だからこそ、ひとつの挑戦として、ものすごく気持ちが入った試合でした。

──終盤の接戦を制した劇的な勝利。あのラストシュートが決まった瞬間、何を感じましたか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

今季の僕たちは、接戦をモノにしきれない試合が多くて。あと一歩が届かない、という悔しさをずっと抱えていたんです。だからこそ、千葉のような“Bリーグの壁”を越えられたことは、チームにとっても、僕自身にとっても、大きな意味がありました。あの一本で、“自分たちはやれる”という自信をつかめた気がしています。

──B2から昇格したチームとして、トップレベルと戦う難しさを感じることもありますか?

たしかに一昔前までは、B1とB2の間には大きな差があったと思います。でも、今はそこまでの差は感じません。去年昇格したチームの活躍もそうだし、僕たちも、やるべきことをしっかり徹底できれば、どのチームとも戦える。チームスポーツって、たった一つのミスや連携ミスが勝敗を左右しますよね。だからこそ、“細部にこだわる力”が問われる。そこを全員で磨いてきたから、今季は本当に成長できているという実感があります。

「“ただ昇格したチーム”で終わりたくない」─B1の終盤戦とその先の覚悟

──残りのシーズン、どんな形で締めくくりたいと考えていますか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

試合も残り10数試合になってきましたが、その中で1つでも多く勝ちたいと思っています。これから当たる相手は、CS(チャンピオンシップ)やプレーオフ進出を狙うような強豪チームばかり。でも、そういった相手に勝てるようになってきた自分たちの姿を、しっかりファンの皆さんに届けたい。僕らが「ただ昇格してきただけのチーム」じゃないってことを、結果で証明したいんです。

──強豪との戦いが続く中での、その言葉には説得力があります。では、今後は代表での8月のアジアカップなどの舞台も視野に入ってきますね。

はい、もちろんそこも狙っています。ここまで積み上げてきた経験を活かして、結果を出して、しっかり代表に選ばれるように準備していきたいと思っています。

──となると…オフはほとんどないですね(笑)。

ほんと、そうですね(笑)。ワールドカップの活動から数えると、2年近く“完全オフ”って呼べる期間がないかもしれません。でも、それがある意味ありがたいことだとも思ってます。いま自分に求められていること、やるべきことがはっきりしているから。休みがないことに対して不満とかは全くなくて、「今はとにかく前に進むとき」だと感じています。


井上宗一郎(いのうえ・そういちろう)
1999年5月7日生まれ、東京都出身。バスケットボール選手。越谷アルファーズ所属でポジションはPF。梅丘中学校、福岡大附大濠高校に進学し、高校3年でインターハイ優勝、ウインターカップで準優勝を経験。筑波大学進学後、2020年に第72回全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)で優勝、翌2021年にインカレ準優勝、自身はBEST5を受賞。同年に三遠ネオフェニックス(B1)に特別指定選手として契約、2022年にサンロッカーズ渋谷(B1)に移籍した。そして同年6月に日本代表に初選出、翌月に代表デビューを果たす。2023年に越谷アルファーズに移籍。2024年にFIBAアジアカップ2025予選 Window1 男子日本代表メンバーにも選出されている。


Photo:Rika Matsukawa