Tennis 7932066 1280

若さが勝るか、経験が勝つか── マイアミ・オープン2025を振り返る

マイアミ・オープン2025は、若手の勢いとベテランの底力がぶつかり合う大会となった。19歳のメンシクがジョコビッチを破り初優勝を飾れば、38歳のモンフィスも大会史上最年長でベスト16入り。フィジカルでは若手に譲るものの、経験に裏打ちされた判断力と円熟したプレーで観客を魅了するベテラン勢。勝利を掴むのは技術か、体力か、それとも経験か。テニスの奥深さがにじむ大会となった。※トップ画像出典/Pixabay(トップ画像はイメージです)

Icon img 9605 1  1 髙橋菜々 | 2025/04/18

毎年3月、アメリカ・フロリダ州マイアミガーデンズで開催されるATPマスターズ1000「マイアミ・オープン」。今年は3月18日から予選がスタートし、3月31日に大会の幕が閉じた。この大会の直前には、カリフォルニア州インディアンウェルズで開催される「BNPパリバ・オープン」があり、この二つのビッグトーナメントで同じ年に連続優勝することは「サンシャイン・ダブル」と呼ばれる。過去に男子シングルスでこの偉業を達成したのは、フェデラーやジョコビッチら、名だたるトップ選手7人のみ。過酷なスケジュールと高いレベルの戦いを連続で制するには、まさに“王者の資質”が求められる。今大会では、その“王者”ジョコビッチが複数の歴史的記録を更新。また、ズべレフも注目の記録を打ち立てた。そして、若手選手たちの躍進も目立ち、新たな世代の台頭を感じさせる大会となった。

【18歳差の決勝対決】19歳メンシクが王者ジョコビッチを破り初優勝!

世界ランク54位・19歳のヤクブ・メンシクが世界ランク5位、37歳のノバク・ジョコビッチと激突。注目された“18歳差対決”は、メンシクがタイブレークの末に7-6、7-6で勝利を収め、自身初となるツアータイトルを手にした。この試合には、ジョコビッチにとって多くの記録がかかっていた。この決勝で勝てば、大会最多優勝(7度目)、大会史上最年長優勝者、ATP通算100勝、マスターズ1000での通算41度目の優勝と4つの記録更新だ。

そんな中で迎えた決勝戦。試合は攻守が目まぐるしく入れ替わる展開で、ラリーの駆け引きも見応え十分だった。193cmのメンシクが放つ強烈なサーブは威力だけでなくコースも素晴らしく、ジョコビッチが反応できない場面も多く見られた。リターンが甘くなれば、すかさず前へ。攻める姿勢は終始一貫していた。第2セットの11ゲーム目、ジョコビッチのプレーも印象的だった。左右に打ち分けるラリーで主導権を握りつつ、ドロップショットでメンシクを前におびき出すと、頭上を抜くロブショット。これをメンシクが後ろ向きのバックボレーで返したが、そのボールを強烈なバックハンドで決め切った。観客の歓声に応え、両手を広げて会場を盛り上げる姿には、王者の風格がにじんでいた。

メンシクは19歳にしてATPマスターズ1000で初の決勝進出を果たし、初優勝を掴んだ。一方のジョコビッチも、37歳になってなおトップレベルで戦い続ける姿で観客を魅了した。この日、テニス界に新たなスターが誕生し、そして王者はなおもその座に挑み続けている。

ベテランの底力を見せた。モンフィスが奮闘!

ベテラン勢も負けてはいない。マイアミ・オープンで決勝に進出したノバク・ジョコビッチは37歳。さらに世界ランク46位のガエル・モンフィスは、38歳という年齢で大会ベスト16入りを果たし、これは大会史上最年長の快挙であり、モンフィスの衰えぬ実力を証明する結果となった。

4年連続、13度目の出場となるモンフィスは、2回戦で23歳のイジー・レヘチカ(世界ランク27位)と対戦。若さと勢いのある相手に対し、冷静なプレーで応戦した。ラリーで振られても動じず、空いたスペースやライン際を狙う精密なショットを次々と決めていく。とくに印象的だったのが第3セット第4ゲーム。ベースライン後方のバックサイドに追い込まれながらも、前方フォア側に落とされたドロップショットを猛スピードで拾いにいく驚異的なフィジカル。さらに第12ゲームでは、またしてもベースライン後方からドロップショットを拾った直後、レヘチカにまさかの股抜きショットを決められた。その一撃でポイントを奪われたのだが、さらに目を引いたのは、そのプレーを至近距離で見ていたボールガールのリアクションがなんとも可愛らしかった。マッチポイントでは、ボレー対ストロークの応酬からモンフィスが相手の逆を突くバックハンドで勝負を決めた。フィジカルの強さと経験に裏打ちされた読みの鋭さで若手を圧倒した。3回戦でもそのプレーは健在だった。ライン際に落ちる美しいショットや、強打からのネットプレーで確実にポイントを積み重ねる。特に印象的だったのはショートクロス。相手が前に出て攻めてきた場面で、相手の目の前を通すようなショートクロスを連発。第3セットでは左右に振られ、押されているように見えた状況から、ギリギリで拾ったボールをフォアでショートクロスへと打ち込み、一気に会場を沸かせた。両手を広げて歓声に応える姿は、まさにベテランの風格そのもの。若手の台頭が目立つテニス界にあって、モンフィスやジョコビッチといったベテランが放つ輝きは、今なおまぶしい。

記録と記憶が交差したマイアミのコート。ベテランが築く歴史の続きを、新星たちがどう彩っていくのか──来年以降の展開にも期待が高まる。