恩師と共に歩んだ最後の瞬間ー斎藤佑樹と萩野公介が語るアスリートの生き様
2011年、同時期に引退した斎藤佑樹と萩野公介。『GET SPORTS 萩野公介×斎藤佑樹 スペシャル対談 生き様のキャッチボール 完全版 「#2 引退」』では、今だから語れる引退の裏側にあったエピソード、そして2人にとっての恩師の存在を明らかにしていった。※トップ画像出典/Getty Images
引退して感じた「選手ってすげえな」
斎藤から「今までずっとやってきた水泳を新しいステージに変えて、どんなことを考えながら今進んでいるのか?」と尋ねられると、萩野は「スポーツはプレーする側、応援する側、サポートする側の3つの立場から成り立っているという話を聞いたことがあり、僕自身、今は応援する立場」だと答えた。続けて「選手ってすげえな」と引退後に感じた率直な想いを口にする。「たとえば、ハートレート(心拍数)180とかってもう苦しいわけですよね。でも選手たちは毎日、毎朝毎晩、180でずっと生活しているような感じじゃないですか?今考えてみたら、ちょっと考えられないと思って…」と現役時代のハードな生活を回想。「離れてみて、ここに居る人たちみんなすごいということ。もっと心から誇った方がいいよって感じている」と現役アスリートたちを称賛した。
萩野も斎藤に選手たちへの思いを逆質問。斎藤は「僕の場合は、周りの選手を見ていて『すごいな後輩』とか『もっと頑張れ』って応援したくなっちゃって。まあ、それもあって、引退を決断したんですけど」と自身の引退理由の一つとなったことを明かした。出典/Corbis via Getty Images
引退を決意した瞬間「これが僕が泳いでいた意味だったんだな」
引退を決意した瞬間を聞かれた萩野は、日本水泳連盟の元名誉会長・古橋広之進氏が残した言葉「泳ぐだけでは魚に勝てない」を聞いたときに、泳ぐ意味を考えたエピソードを明かす。その言葉が胸に浮かんだのは、東京五輪の予選のときだった。「もしかしたら次が最後のレースになるかもしれない。その時、遠征で初めて海外に行ったとか、初めて(水泳で)友だちができたとか、初めて悔しかったレースとかうれしかったレースとか、もういろんな思い出が走馬灯みたいな感じで出てきて、もう涙が止まらなくて。『ああ、これが僕が泳いでいた意味だったんだな』って感じて『これはもう引退をする時だな』と思いましたね」その後、平井伯昌コーチに涙ながらにその思いを伝えると「そうか、泳げ」と一言だけ返されたという。
「アスリートの最後って、みんな似ているんだな」と話す斎藤にも、同様の経験がある。現役最後のマウンドで「俺の野球人生ってこんなことがあったなって思い返して、マウンド行く前に泣きそうになった」と明かした。それでも涙をこらえて最後まで投げ切った斎藤は、ベンチに戻った瞬間、栗山英樹監督から肩を叩かれ、ぼそっとかけられた言葉に涙が溢れたと振り返った。
引退に立ち会った恩師の存在─出会いや縁の大切さを実感
2人には、引退に立ち会った恩師の存在がある。太い絆と尊敬の念はどのように育まれたのか?
平井コーチについて聞かれた萩野は「人を育てる面に関して、すごい」と話す。「選手を見ていて、ここに問題があるなとか、なんかちょっと思っているとこあるんじゃないのかなって思っていたとしても、それを本人が気付くまで待つんですよね」と平井コーチの指導法を明かす。アスリートの人間性を育てつつ、最終的に問題にぶち当たるまで見守るのだ。そのうえで「水泳を水泳だけで解決するな」という教えが、印象に残っているという。「いろんな人との出会いがあって、今の自分がいる。すべて水泳がつながってくることだと僕は思う」と荻野は恩師の教えで、人との出会いや縁の大切さを実感したという。出典/Getty Images
一方、斎藤にとっての恩師は栗山英樹監督である。栗山監督とのファーストコンタクトは、高校生時代の取材だった。斎藤は「この人を僕は越えられないなって思う瞬間が多々あって。言葉の一つひとつに本当に重みがあるし、すべてが胸に刺さる」と語る。成績が出せず苦しんだ時期も、栗山監督は「最後までちゃんとやり切りなさい。とにかくがむしゃらになって泥だらけになって、その姿をちゃんとみんなに見せなさい。それが佑樹の責任だ」と絶えず声をかけ続けてくれたという。「だからこそ、僕も栗山監督みたいになりたいって思いがずっとあるんですよね」と監督へのあこがれを話した。
それぞれの未来ー教える立場として
「平井さんのような存在になりたい?」と尋ねられた萩野は即座に「思わないですね!」と回答。その理由を「あまりにもすごいから、僕は絶対無理です。だからこそ指導者は向いてないなと思う」と率直に語った。しかし大学院で学ぶ萩野はいずれ教える立場になる可能性がある。「本気95%冗談5%」と前置きして、「あいつの授業“ラクタン“(ラクに単位が取得できる)だからみたいなことを言われる先生でいたいなと思うんです」と冗談を交えつつ「何より受動的よりも能動的な方が大事だと思うので。『こういうものが世の中にあります。知りたい人はどうぞ』みたいなスタンスがちょうどいい」と自身の理想像を語った。
それぞれの道を歩み始めた2人は、いつか後輩たちに自身の経験を伝える役割を担う日が来るだろう。対照的ではあるが、その準備は着々と進んでいる。
『GET SPORTS 萩野公介×斎藤佑樹 スペシャル対談 生き様のキャッチボール 完全版 #2「引退」』
放送:2022年6月5日(日)
内容:去年、同時期に引退した萩野公介と斎藤佑樹。引退の裏側にあったエピソード、そして2人にとって恩師の存在とは...
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